「先生、篤史が昨日清香を泣かせたんです。」
「なのに謝らないで言い訳ばっかり。」
「見てください。清香、すごく辛そうでしょう?」
事実を誤認したクラスメート達が口々に話し始める。
杉本は黙って聞いていたが、やがて篤史に向かって口を開いた。
「篤史、本当か?」
「違うんです。俺は、受験で悩んでた清香を励まそうと思って…そしたら、清香が泣いちゃって…」
「清香、どうなんだ?」
杉本は清香に問い掛けたが、やはり返事はなかった。
「…」
杉本は考え込んだ末、篤史に言った。
「どういう事情があったにせよ、泣かせるのはよくないな。」
「え…?」
「はい、決定ー!悪いのは、篤史。」
「何でだよ…」
篤史は拳を震わせた。
「泣かせたんだから、当然じゃん。」
「ほら早く謝れよ!」
「謝ることも出来ないの?」
「終わってんな、本当に…」
「…うるせぇんだよ。」
「は?」
篤史はついに堪え切れなくなり、声を荒げた。
「うるせぇって言ってんだよ!どいつもこいつも寄ってたかってボロクソ言いやがって!」
「悪いのはお前だろ?」
「何もしらねぇくせにワーワー言ってんじゃねぇよ!俺の話しなんて聞く耳も持たないし…何だお前ら!」
篤史の目に悔し涙が浮かぶ。
「よく分かったよ!出てけばいいんだろ!」
「…ああ。2度と来るな…」
「ああ、こねーよ!…あーやってらんねぇ…」
こうして篤史は教室を飛び出し、以後2度と来ることはなかった。
その後、落ち着いた清香が事情を話し、篤史の不当な屈辱は晴れたものの、杉本組はこの日を境にどこか気まずい空気を帯びてしまった。
自分達のせいで篤史を傷つけたこと。まとまりのあった杉本組を、自分達が壊してしまったこと。
何度か篤史と連絡を取ろうとするが、アドレスも電話番号も変えられていた。
自宅に電話しても、篤史本人が接触を拒否していた。
杉本組は、ピースが一つ欠けたパズルのような状態だった。
杉本は、教師として生徒を信じてやれなかったことを悔やんでいた。
一晃は学級委員として責任を感じ、恵梨は誤解を招き、一連の騒動を招いた罪悪感に苛まれ、清香はすぐに本当のことを言わなかった事を後悔していた。
その他のクラスメートも、篤史に申し訳ないという思いを抱えていた。
続く