とにかく寒い。
べったりと張り付いた髪の毛から雫がしたたっては服に流れていく。
僕らはお互いの顔も見えない闇に覆われていた。
すぐ隣にいる圭司の息遣いが妙に耳につく。
せめて僅かな明かりがあれば…だがあるのは時計の刹那に輝く光りくらいだ。 それも薄い緑に輝くくらいで瞬時に消えてしまう。
「ここにじっとしてた方がいいかな」
拓斗の声は掠れていて普段の軽い口調を必死に保っていた。
いや、保とうとしている。
「どうかな、…正直さ、じっとしてたら寒くて気ぃ失いそう」
遭難場所から動かないというのは助かるためのセオリーだと僕らは皆知っている
だけど実際こういう目にあって動かずにいるのは至難の技だ。
じっとしていると精神的に追い詰められていく。
だがこんな暗闇で歩けば滑って転んで骨折でもするのが関の山だろう。
「せめて月でも出てればなあ…」
僕の言葉に二人はため息で応答。
無言でいるうちに、降り続いていた雨は、ようやく霧雨に変わった。
ごく小さな、仄かな希望。
このまま晴れてくれれば市道まで行けるかもしれない