「何が偽物の手掛かりだ!
ふざけやがって!」
明彦が怒鳴り散らした。
それを見て、深雪がケラケラと笑う。
「非常に無駄な重労働、とも言ってましたね」
喜久雄が追い討ちをかけるように笑いながら言った。
明彦はテーブルをドンと一回叩いて、そのまま食堂を出ていった。
「さぁ、僕達も部屋に帰るか」
喜久雄と友子も食堂を出る。
そして、鹿島もビデオを持って出ていった。
深雪は食堂に残って煙草を吸いながら、一人でレモンパイを食べている孝子を見ていた。
この子をなんとか仲間に出来ないものか?
深雪はそう考え始めていた。
頭がいいのか、勘がいいのかは分からないが、少なくともこの子は、今までに二つの事を言い当てた。
まず、あの白のクイーンを雅則兄さんが隠した事、そして『パブロ』が『ピカソ』の暗示である事。
孝子をなんとか仲間に引き込めれば、きっと有利になるはずだ。
しかし、それには問題がある。
肝心の孝子が、ちっとも宝探しに興味を示さない事だ。
深雪には、お金に興味を示さない人間がいるなど、信じられなかった。
彼女が生きてきた世界では、そんな事は有り得なかった。
だが、この子はどうだ。
全く宝探しをしようとしない。
毎日図書室にこもりっきりで、本ばかり読んでいる。
このレモンパイのヒントにしたって、全然メモなどしなかった。
単に食べ物としてしか見ていないのだ。
「ねぇ、あんたお金欲しくないの?」
深雪が孝子に聞く。
「私はアイスクリームを買うだけのお金があれば、それでいいの」
「あんた、変わってるね。
お金がたくさん手に入れば、いくらでもアイスクリームなんか食べられるじゃない」
「でもね、二百八十億円分のアイスクリームは、食べきれないわよね。
だって、お腹こわしちゃうもん」
孝子はそう言うと、席を立った。