昔のエリック王の姿を思い浮かべながら、彼は静かに首を横に振った。
―偉大な父を謙虚に受け止める心を育んであげられなかった。結果、こうなってしまった…。
「後悔しても始まらんな」
サイファはもう一度首を横に振って一つ大きく頷くと、据え置かれた机の引き出しを開けて紙を取り出した。
羽ペンにインクをつけてスラスラと何事かを書き込む。
「ワシに出来る事はこれしかあるまい」
彼は小さくそう呟いて、窓を開けた。
雲一つ無い夏の青空がそこには広がっている。
彼は先ほどの紙を窓の外に放り投げた。
紙はヒラヒラと舞いながら、庭園の花壇に落ちていった。
しばらくして一人の男が花壇に近付き、紙を素早く懐の中に入れる。
サイファはそれを確認して小さく頷くと、ゆっくりと窓を閉めた。
紙を懐に入れた男は慌てる素振りを見せずに悠然とその場から立ち去っていった。
「ふはあ…」
「ふう…」
「はあ…」
メディナから訓練を受けたダリル、ザック、エナンの三人はまた地面に突っ伏していた。
「どうやらスタミナはついてきたみたいね」
メディナは三人の表情を見つめながら、ミーナから手渡された水を飲んだ。
「そうですかね?あんまり自覚無いんですが…」
「最初に比べたら、という話しよ。兵士十人と三十分戦うだけでばててしまう。あなた達はまだそんな段階ね」
「兵士十人!?」