第五章
迷路という名の中盤戦
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四月十八日
深雪が食堂に入って行くと、すでに他の者は朝食を済ませたあとだった。
彼女の前にトーストとコーヒーを運んできた牧野に孝子の事を聞くと、二十分程前に食事を済ませてどこかへ行った、という返事だ。
彼女も急いで食事を終えると、図書室へ行った。
ここに来れば、孝子に会えるはずだと思ったからだ。
しかし、意外にもそこにいたのは、掃除をしている牧野夫人ただ一人だった。
「あら、孝子はいないの?」
「孝子お嬢様は三階のトランプの部屋へ行かれました。
掃除が済みましたら、声をお掛けする事になっております」
「三階の二号室ね、分かったわ」
深雪はその足で三階に向かった。
あそこにいてくれるのなら、なお都合がいい。
わざわざ誘い込む手間が省けた。
彼女はいつしか急ぎ足になっていた。
三階二号室のドアをノックすると、中から孝子の返事があった。
深雪が部屋に入ると、孝子はブラックジャックのテーブルの上にトランプを広げて何かをしていた。
「あら、先客がいたのね」
深雪がとぼけて言った。
「私の事は気にしなくていいわよ。
宝探しの邪魔なら、ほかの部屋に行きましょうか?」
「別に邪魔じゃないわよ。
それより何をしてるの?」
「これ?
ただのトランプの一人遊びよ」
「ふーん」
そう言って、深雪は孝子のテーブルに近づいて、孝子の向かい側に座った。
テーブルの上にはトランプが並べられていた。
「一人遊びって、どうやるの?」
「これはね、まずハートのキングとハートのクイーンだけを抜き出して、残りのカードをよくシャッフルするの」
孝子はその通りに、ハートのキングとハートのクイーンだけを取り除き、その二枚をテーブルの隅に置くと、残りのカードを裏返しのままシャッフルし始めた。
そして、シャッフルされたカードを手元に置く。
「そしてね、私は女だから、ハートのクイーンを最初に置くの」
そう言って、隅に置かれた二枚のカードの内の、ハートのクイーンだけを一枚取って、テーブルの中央よりやや左側に置いた。
「このクイーンの右側に、このシャッフルしたカードの山の中から、一枚づつ並べていくのよ」