「余命あと二ヶ月だね。」
医師は丸縁の眼鏡を外して、デスクの上にある黒ずんだ布切れを手にした。レンズに息を吹きかけ、布切れで水滴をそっと拭う。
「いや、でもねコウくん。これは考え方の問題だよ。君は今18歳だっけ?僕は36歳でちょうど君の二倍生きてるけど、自分の人生って絶対に半分は無駄にしてると思うわけ。君もこの先、人生半分以上無駄にするよりも…ねぇ?あ、それに大学受験とか就職とか考えなくて済むし。」
他人が耳にしたら即刻人権侵害だとかで訴えられそうな矛盾だらけのフォローというか無神経な発言は、今のコウには妙に信頼性のあるものに聞こえた。自分が今まで充実した人生を送ってきたとは思えないけど、これからも意味の無い毎日を送るだけならここで死んだ方が自分の為じゃないのか。
「前も言ったけど…君の脳の腫瘍、これ取り除きようがないんだもん。奥まで入りこんでてさ…」
はぁ、と適当に相槌を打ちながらコウは別のことを考えていた。寿命まで生きるのももしかして無駄なことじゃないのか。それならいっそ自殺でもした方が良いのだろうか…。
「それにしても変な形の腫瘍だねぇ…まるで天使の羽みたいだよ。」