最悪だ。
逃げ切れると思ったのに
警察に捕まってしまった。
逮捕容疑は傷害罪。
いくら頼んでも金を貸してくれない友人を
ナイフで刺した。
俺は逃げた。
捕まるわけにはいかなかった。
付き合って1年になる彼女との
記念日がもうすぐだった。
この日のためにプレゼントも買ったし、
綺麗な夜景が見えるレストランも用意した。
元々貧乏だった俺は、
すぐに貯金を使い果たし、
友人に貸してもらおうとしていた。
しかしあいつは
何かと理由をつけて
全く貸してくれようとはしなかった。
借金とはいってもたかだか5万円。
それっぽっちの金も貸してくれない友人に
俺は腹がたち、
とっさに友人の家にあった果物ナイフで
あいつの腹を刺した。
というか
気づいたら刺していた。
俺は正気に戻り、
逃げ延びる方法を探った。
相手は重傷なので
すぐには意識は戻らないだろう。
俺は第一発見者を装って警察と消防に連絡し、
あたかも第三者の犯行のように見せかけるための準備を整え、
何食わぬ顔で警察の事情聴取に応じ、
ここまで逃げ延びた。
どうして冷静にこんなことができたのか、俺にもよく分からない。
だが、
友人の傷は思ったよりも浅く、
すぐに意識を取り戻したあいつの証言によって
俺は逮捕された。
取り調べを受け、
留置所に拘留され、
そして裁判が開かれた。
俺はどんな判決でも受け入れるつもりでいた。
たかだか5万円のために
傷害事件を起こした自分に腹がたっていた。
決して軽い刑にはならないだろう。
仮に刑に服し、更正し、出所したとしても
彼女はもう俺を認めてはくれないだろう。
もういっそのこと死刑にしてほしいとさえ思った。
出所して世間の冷たい目に晒されて生きるより
死んでしまったほうがよっぽどマシだ。
だから俺は、告げられる判決を
甘んじて受けるつもりでいた。
「判決を言い渡します。」
裁判長の声が響き渡る。
罪状、判決理由が述べられ、いよいよ刑期が告げられた。
その刑期に、俺は思わず耳を疑った。
「主文、被告人を、懲役3年に処す。」
続く