「きっとこの中のクイーンに、何か手掛かりがあるはずよ」
深雪は興奮してそう言うと、テーブルの上にトランプを広げた。
「こ、これだわ!
これが手掛かりよ!」
深雪が指差したダイヤのクイーンには、なんと髭が書き込んであった。
「姉さん、すごい!
とうとう見付けたわね。
…ところで、この髭なぁに?」
「分かんないわよ。
これから考えるのよ。
あんたはどう思う?」
「全然分からない」
二人は、髭のある女王様を間に挟んで、すっかり考え込んでしまった。
「ねぇ、孝子。
ハートとかクラブじゃなくって、ダイヤのクイーンにだけ髭があるって事がポイントかしら?」
「うーん、それはどうかしら。
ダイヤのマークっていうのは、貨幣の象徴だって聞いた事があるの。
この場合の貨幣は、財産を差してると思うんだ。
だからそれを暗示して、ダイヤのクイーンにだけ髭があるんじゃないかしら」
「ダイヤがダメとなると、残るはこれよね」
深雪はトランプの裏側、ピカソの『ゲルニカ』を示した。
「これ、いったい何の絵なの?」
「これはね、『ゲルニカ』っていって、戦争の絵よ」
しかし、『ゲルニカ』という言葉にも、『戦争』という言葉にも、特別な連想は浮かばなかった。
「じゃ、あたしの言う事を、笑わないで聞いてくれる?」
深雪がおそるおそる言い出した。
実は彼女は、最初にこのカードを見た瞬間、ピンときたものがあった。
職業的直感とでもいうのだろうか、彼女の住む世界では、すぐに連想できる事であった。
だが、この屋敷の中では、あまりにも場違いな感じがして、それでなかなか言い出しにくかったのだ。
「姉さんが何を言っても笑わない。
天国の雅則兄さんにも誓うわ」
「あのね、このカードを最初に見た時に、手掛かりは『おかま』かと思ったの」
そのとたんに、孝子がケタケタと笑い出した。