その、二日後、だっただろうか。
能天気な私も、さすがに精神が不安定になりだした。
それもそうだ。命をかけての逃亡劇、私やアルファが未だ正気を保っていられるのは、…アルファは一度おかしくなりかけたが、奇跡と言っていい。
何にしても、私一人では絶対にここまで来られなかった。
だからこそ、不安だった。
私は、殺される…
「大丈夫か?取り敢えず、最終手段の準備だけはしておくけど…」
黙ってアルファに携帯を渡した。
「・・・。」
彼も黙って携帯を操作していた。…悲しげな表情で。
私がこんなだから、彼も辛いんだ。
私がそう思い出すまで、時間はさほどかからなかった。
「…もしもし?」
私は聞き耳を立て始めた。
いけない事だろう。だが、気になって仕方がなかった。
彼ほどミステリアスな人が携帯を使って話す相手っていったい…
電話の向こうから、物が崩れ落ちるような物音が聞こえた。
「…また、あなたなの?」
若い女性の声。うんざりしているようだった。
「ああ。…盗聴機は?」
「三つついていたけど、外しておいたわ」
「流石だな」
溜め息。
「とにかく、『あれ』の準備だ…頼むよ、リーナ」
私は思わず口に出してしまった。
「リーナ!?」
「…あら…ソフィアもそこにいるの?」
「なんだ、知り合いか」
「サークルのメンバーよ。話すのは初めてよね?…それより、いい加減に名前で呼ぶのは止めてくれないかしら?」
「…わかったよ。…ミス・リューリアック。それと、頼む。礼なら、弾むからさ」
「…この状況で、まだ金が全てだと思っているの?馬鹿馬鹿しい。…じゃあ、終わったら、掛け直すから」
そう言って、電話はブツリと切れた。