青の箱庭は静かになり、ただ、二人と一匹のいる空間だけが熱気を帯びていた。
「……はぁ。疲れた。」
「そうだな。」
ジーナは剣を投げ出して床にへたり込んでいる王子の頭に、ぽん、と手を置いた。
「お疲れ。」
「……ありがとう。」
珍しいな、と思ったことは、怒られるので口には出さないことにした。
俯せに横たわる猫の、血だらけの背中を見遣り、王子はゆっくりと立ち上がる。
「君もよく頑張ったね。」
猫に近寄り、鼻の上を撫でてやると、猫は気持ち良さそうに目を細めた。
「王子、そいつに薬を塗ってやれ。」
ジーナが万能薬の入った丸い銀の小箱をぽんと王子に投げ、王子は受けとった。蓋を回して中身を確認すると、あと三分の一ほどしか残っていない。
「ごめん。昨日僕の怪我に使ったせいだね。」
「気にするな。使うためにある薬なんだからな。」
ジーナは気軽に肩をすくめてみせ、「お前も肩の傷に塗っておけよ」と付け足した。王子は申し訳なさそうに少し笑い、猫の背中の側に回る。
カタカタ、カタ。
その時だった。
「……え?」
王子は近くの床の上に置いてある、ボールの入った鉄の箱に目を向け、言葉を失った。
一つのボールがゆらゆらと箱から浮き上がり、王子の目線の高さまで上ってきたところだった。
ジーナもそれに気づいて絶句する。しかし、ボールが王子の耳の横を通り過ぎ、先程ボールをぶつけた青い壁へ、吸い寄せられるように漂い始めたのを見ると、さっと顔色を変えて立ち上がった。
「逃げろ。」
ジーナは突然低い声で言った。
「ジーナ?」
「またさっきのように敵が現れる!休息を取ればなんとかなると思っていたが、どうやら私達を休ませてくれる気はないようだ。」
ジーナは、ハッ、と皮肉な笑みを浮かべ、再び剣を抜き放った。
猫は疲弊しているだろうに、機敏な動きで起き上がると、鼻先で強く王子の腹を押した。
「で、でもジーナが、」
「私のことはいい。それより、自分と猫のことを考えろ。お前達はすでに消耗している。次の戦いで持ちこたえられるとは到底思えない。」
王子はぐっと言葉に詰まった。
そして次に口を開く間もなく、ボールはきゅるきゅると空中で回転を始め、次の瞬間、パアン!と音を立て、自ら壁にぶつかった。
「走れ!」
ぼこ、と盛り上がった壁と対峙し、ジーナは鋭く叫んだ。