「私も、始めは毎日掃除ばかりするなんて御免だと思ってました。」
佐々木が話し始める。
「しかし…いざやってみると、もう病み付きになりましたね…自分で壷を磨き、輝きが増す…まるで新たに命を吹き込んでいるような、不思議な喜びでした。」
当時を思い出すように、佐々木は述懐した。
「元々掃除などは嫌いなほうでしたが…もうすっかり私の生き甲斐です。」
「そうなんですか…」
ここで俺は気になったことを聞いてみた。
「川上さんと、佐々木さんはなぜここに入所したんですか?」
「私は…ひき逃げです。」
川上が言った。
「遅くまでの仕事で疲れていて…その状態で運転していたら…飛び出してきた子供をひいてしまい…怖くなって逃げたんです。」
川上は神妙な顔で語った。
「私は弱かった…今となっては後悔してもしきれません…出所したら、遺族の方のために精一杯尽くします。」
「私は、婦女暴行です。」
佐々木も話しはじめた。
「最低な男です…大学の同級生だった女性を…欲に任せて…
ここでしっかり罪を償い、まっとうな人生を歩んでいきたいです。」
やはり皆、過去に悪質な犯罪に手を染めていたのだ。
そしてここで過ごすことで、自分ともう一度真剣に向き合い、出所後の人生の再起を目標に、一生懸命刑期をこなしている。
俺は深く感銘を受けた。
「…すごいですね。俺…正直一度逃げてやろうと思ってました…」
「無理もありません。やることは単調以外の何物でもないんですから。」
「でも…お話を聞けてよかったです。俺、ここで3年間、しっかり自分を磨こうと思います。」
「その意気です。」
「あなたは順応が早い。」
川上も佐々木も温かい微笑みを浮かべた。
「私達はここに来て2年。あと1年で刑期を全うします。それまで、何か不安があれば相談に乗りますよ。」
その川上の言葉に、俺は目を見開いた。
「皆…懲役3年、なんですか?」
「ええ…凶悪犯で懲役3年の刑が下ると、皆さんここに入れられます。」
…そんな法律があっただろうか?
俺は疑問に思った。
ちょうどその時
「昼食終了の時間です。」
所内に高嶋のアナウンスが響き渡った。
続く