その日、タナーおじさんは何事も無かったかのように黙々と仕事をしていた。あのコートの血については聞けなかった。怖くて…。
仕事中に何度かイーディ達に目を向けたが、まだ大人達は帰ってなかった。声を掛けようとしたが、タナーおじさんの存在のせいか、また声を掛けづらくなった。
仲良くしていたら、怒られるし、サーカスの人達が追い出されるかもしれない。僕は急に胸が苦しくなった。
陽が沈み出すと、僕はイーディ達が益々気になり、しびれを切らした。 僕は大人達を待つイーディ達に駆け寄り、声を掛けた。
「イーディ…大人達はまだ帰って来ないみたいだね」
「あぁ…それよりいいの?僕らと仲良くしてるとこ見られたら、まずいんじゃない?」
「うん…絶対怒られる」
「でしょ?僕らの事、心配してくれてありがとう。でも、大丈夫だから」
「…」
僕は、このままイーディ達を置いていく事は出来なかった。初めて出来た友達を何もせず黙って見ていられる訳がない。
「何か困った事があったら言ってよ。絶対力になる。頼りないかもしんないけどさ」
僕が真面目にそう言うと、イーディは笑った。
「いや、頼りにしてる」
この時、僕の心臓がドクンと鼓動した。
夕焼けの赤い陽が僕の顔を染める。
「…えっと、じゃあね!絶対頼れよ!」
僕は逃げるようにして、その場から足早に去った。
こんな気持ちは初めてだった。恥ずかしいのに、とっても嬉しいのだ。
イーディの力になれればと、僕の頭はそんなことでいっぱいだった。