掃除を担当する部屋は毎日違っていた。
ほとんどが初日と同じくらいの広さの部屋だったが
なかには40畳くらいある大広間や
半日あれば掃除が終わるような部屋もあった。
刑務所に入って3ヶ月ほど経った頃、俺は新たな仕事を与えられた。
高嶋は俺にはたきとハンディモップを手渡した。
「今度は、天井や高い所のほこり落としです。
自分の驕り高ぶった心のほこりを、綺麗に清めるのです。」
高嶋はなかなか上手いことを言った。
「はい…」
俺はこれまで以上に精を出して、掃除に励んだ。
刑務所内では刑期を終えて出所していく者もいれば、
新たに囚人としてこの刑務所に加わる者もいた。
去っていく者は涙を浮かべながら、あるいは晴れやかな笑顔を浮かべながら、扉の向こうの世界へ歩んでいった。
その姿からは、かつて彼らが凶悪犯罪者だったとは想像できなかった。
やはりこの刑務所には、たった3年で人格を変えてしまう不思議な力があるようだ。
新たに加わった者達は、初めの頃はいかにも凶暴そうな、目つきの鋭い者もいたが、どこか気の抜けたような、自暴自棄になったような虚ろな表情の者も多かった。
最近の日本の犯罪者の特徴を如実に反映しているかのようだ。
当然、皆最初はこの刑務所での刑期に反抗しており、中には脱走を試みる者も現れた。
しかしながら掃除という行為を通じて自分の心と向き合うことで、
やがて囚人達は素直に刑期をこなすようになった。
「そんな荒っぽい磨き方ではだめです。」
力任せに雑巾で壷を拭く囚人に、俺は話しかけた。
「この壷はあなたの心。ゴシゴシと力任せに擦っては、やがて傷ついてしまいます。あくまで丁寧に、かつ入念に磨くのです。」
「はい。」
囚人は言われた通り丁寧に磨きはじめた。
俺はそれを見て、かつての自分の姿を重ね合わせた。
俺も最初はこんな風に思い切り擦るように拭いて…川上さんや佐々木さんに注意されたっけ…
はたきがけが完璧と認められると、今度は床のほこりをほうきや掃除機で綺麗に取る仕事を与えられた。
「心にかかったほこりを、残らず回収します。あなたの心は綺麗になり、やがて輝きを産む過程へと向かいます。」
高嶋は微笑みながら言った。
続く