欲望という名のゲーム?77

矢口 沙緒  2010-07-25投稿
閲覧数[438] 良い投票[0] 悪い投票[0]




深雪は図書室で孝子といる間に、ある事に気がついた。
迷路とは、結局三つの要素で成り立っているのではないか?
入り口と出口、そして行き止まりだ。
では、このスマイル君とやらは、それのどれに当たるのか?
まず出口だが、これは違うだろう。
雅則兄さんは、これが正しい入り口へ案内すると言っていた。
では、入り口なのか?
しかし、自分が罠に落ちた入り口はトランプだった。
明彦の奴が、庭の木の根元に穴を掘ったきっかけも、どうやらスマイル君ではなさそうだ。
という事は、入り口も違うのではないか?
残るは行き止まりだ。
そうだ。
このスマイル君とやらが、全部迷路の行き止まりを示すものだとしたらどうだろう?
それなら、一つ一つの顔に、違いや個性がなくても構わない。
行き止まりに個性なんかないからだ。
だがこの場合、文字通りの行き止まりとはちょっと違うような気がする。
では、どんな形の行き止まりなのか?
確か雅則兄さんは、『思考の迷路』と言う言葉を使った。
となれば、これは『思考の行き止まり』という事だろうか?
深雪はベッドから立ち上がり、リビングルームに出た。
ホームバーでブランデーをグラスに注ぐと、一気に煽った。
そしてカウンターの椅子に座り、煙草をくわえた。
『思考の行き止まり』という言葉は、深雪にとってはあまりにも抽象的すぎた。
もっと具体的な形にしないと意味がない。
その一つの手掛かりとして、あの笑い顔がある。
なぜ笑い顔なのか?
真顔や泣き顔では、どうしていけないのか?
単なる愛想笑いとは思えない。
彼女はドアに掛かっているスマイル君を見詰めた。
この人のよさそうな笑顔が、何かを訴えかけているのか?
何かを教えようとしているのか?
あるいは、何かを語ろうとしているのか?
深雪は仕事柄、いろいろな笑顔を見てきている。
それらを見分ける目も養ってきている。
そして、彼女自身もまた、いつのまにか笑顔を使い分けるようになっていた。
しかし、このドアに掛かっている笑顔は、不思議な笑顔だった。
とても優しく、暖かいものを感じる。
優しく何かを語りかけているのだ。
指の間に挟んだ煙草が、いつの間にか灰の棒と化していた。
深雪はそれを灰皿に捨てる。



投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 矢口 沙緒 」さんの小説

もっと見る

ミステリの新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ