そうだ。
もしこの笑顔が行き止まりを意味しているなら、こう言っているのではないのか?
『残念だったね。
ここは行き止まりなんだよ』
そう笑いながら言っているのだ。
では、それは誰に?
もちろん、この笑顔と対面している人間にだ。
ではその人間は、いつ笑顔と対面するのか?
そう!
それは部屋を出る時だ。
部屋のドアの内側に掛かっている以上、そう解釈するしかない。
謎はもうひとつある。
どうしてあたしの部屋に、この笑顔があるのか?
鹿島の部屋にもあった。
話の様子では、ほかの者の部屋にもあるらしい。
二階の六部屋は個人部屋なので、特別除外エリアとかいって、手掛かりは何も隠していないはずだ…
その刹那、彼女は全てを理解した。
あるいは、ドアに掛かっている笑顔の言葉を聞いたのかもしれない。
それは優しい口調で、こう言ったに違いない。
『残念だったね。
この部屋をいくら探しても、何もないのだよ』
分かった!
これは、そういう意味の行き止まりなのだ。
ドアにこれが掛かっている部屋をいくら探しても、何も見付からないか、あるいは何かを見付けても、それは間違った入り口でしかないのだ。
だからこの部屋にも掛かっているのだ。
この部屋には何もないのだから。
例えば応接室を懸命に探索した人がいるとする。
その人が結局何も見付けられずに、諦めて外に出ようとする。
その時、この笑顔と対面するのだ。
そして雅則兄さんの笑顔がこう言う。
『残念だったね。
この部屋をいくら探しても、何もないのだよ』
深雪は見取り図の紙を開いた。
X印がいたる所に書き込んである。
そう、この屋敷自体が迷路なのだ。
そして、この笑顔が行き止まりだ。
では、外のドアに掛けてあった、あれはどう考える?
庭から屋敷に入るあのドアだけは、あれがドアの外側にあったはずだ。
しかし、答はすぐに見付かった。
あれも同じ事だ。
屋敷の外をいくら探しても、何も見付からないのだ。
そして、迷路を確実に抜ける方法は、さっき孝子がやって見せてくれた。
行き止まりを塗り潰していけばいい。
残った所が出口だ。
いや、この場合は出口ではない。
二百八十億円への入り口なのだ。