奈央と出会えたから。<409>

麻呂  2010-07-28投稿
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『聖人君と木下さんも知ってのとおり、
うちのユカは気が強くてね。

今回の件でも、職員室で、森宮 ヒロキ君の頬をひっぱたいたそうで‥‥。

ハハハ‥誰に似たのだか。』



ワインを一口だけ口にしてから、


ユカのお父さんは更に続けた。



『近々、市議選に立候補しようと考えていたのだけれど‥‥
私は、今回の君達の勇姿に心を動かされたよ。

そんな事よりも、まだ私には、やりたい事が有った筈だと、気付かされたんだ。』



ワイングラスを持つ手が微かに震えていた。


酔っている筈はない。


だって、まだ1口しかグラスに口をつけていない筈。



『お父さん?!』



ユカが少し心配そうに視線を向ける。


そして、あたし達も。



『実はね、聖人君に奈央ちゃん。

ユカには、もう話してあるのだけれど、3学期いっぱいで、
私達家族は、道東にある私の実家へ引っ越す事になったんだ。』



お父さんの言葉に、ユカは納得した表情を浮かべたケド、


聖人とあたしにとっては、初めて聞く話で、


ただ驚く事しか出来なかった。



『私の実家は酪農をやっていてね、

若い頃、ちょっとした事がきっかけで父親と疎遠になり、

私は長男であったが、実家の酪農を継ぐ事は絶対に無いと思っていた。

本当は、酪農の仕事が大好きなのにな。
ずっと、自分の本当の気持ちに嘘をついて生きてきた。』



そんな。


ユカと離れ離れになってしまう?!


せっかく、また仲良くなれたのに。



『やりたい事やればいいじゃん。

オジサン、こんなに美味い料理だって食わしてくれんじゃん?!

こっちも才能あるんじゃね?!』



聖人ったら。


いくら小さな頃から知っているからって、そんな言い方はっっ!!



『いやだな。今日は、そんな話をする為にご招待したワケじゃないのに。

ごめんね。

お父さん、もうその話はNGね!!』



ユカが気を遣ってくれる。


そんな、


気を遣わなくていいよ、ユカ。


3学期いっぱいまで――


もう半年もないじゃん――


そんな事って――


そんなのって――



急すぎるよっっ!!

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