半次郎は洞口の前に歩み寄り、静かに剣を抜き放った。
「貴女に恩返しできる機会は、これが最期なのかもしれない。
だから、この通路は私に閉じさせてください」
やや右斜めの上段に構える半次郎。
ノアはそれを、少しさがった位置で見守っていた。
小さな洞窟は見た目に反し、塞ぐのが難しい。
大きな洞窟ならば、広い空間を維持する反動として、洞壁に強い圧力がかかっている。
その圧力が集中する一点を突き崩せば、洞窟は奥深くまで崩落する。
だが、小さな洞窟ではその圧力も小さく、同じやり方では表面だけしか塞ぐことができない。
この洞窟を完全に塞ぐには、崩すのではなく破壊する必要があった。
剣を構える半次郎は、切っ先にオーヴを集中させていた。
それは、ある考えからの試みであった。
ノアから教わったオーヴの知識から、オーヴは体表面にとどめることが可能であると、半次郎は知った。
実際に試してみると、これが思いの外難しくて上手くできない。
何度か挑戦する過程で、半次郎はオーヴ自体が反発しあう性質に気付く。
その性質がオーヴをとどめておく事を難しくしているのだが、これを高密化させた後に一気に解放することができれば、それは爆発的な破壊力を生み出すのではという発想に、半次郎はいたっていた。
心を無にし、切っ先に全神経を集中させる半次郎。
体表面にとどめることすら成功していない彼に、切っ先へオーヴを集中させるのは至難の技であった。
だが、半次郎には強い想いがあった。
自分にオーヴの知識を与えてくれた、ノアの心に応えたいという想いが。
そしてその想いは、ほのかな光となって切っ先に宿り始める。
オーヴを高密化させ始めた半次郎。
それを目にした今、ノアは確信した。
この男は数世紀に一人出るかどうかの、オーヴの使い手であると。
「オーヴは密集すると互いが干渉しあい、光をはなち始める。
その光が目も眩むほどになった時が、オーヴが臨界をむかえた合図だ」
ノアからの助言に、半次郎はさらに集中力を高めていく。
徐々に光を増していく半次郎の剣。
その光が臨界点を迎えようとしたまさにその時、突如として強大な殺気が、二人を背後から襲う。