流狼−時の彷徨い人−No.60

水無月密  2010-07-28投稿
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 半次郎は洞口の前に歩み寄り、静かに剣を抜き放った。
「貴女に恩返しできる機会は、これが最期なのかもしれない。
 だから、この通路は私に閉じさせてください」

 やや右斜めの上段に構える半次郎。
 ノアはそれを、少しさがった位置で見守っていた。


 小さな洞窟は見た目に反し、塞ぐのが難しい。
 大きな洞窟ならば、広い空間を維持する反動として、洞壁に強い圧力がかかっている。
 その圧力が集中する一点を突き崩せば、洞窟は奥深くまで崩落する。

 だが、小さな洞窟ではその圧力も小さく、同じやり方では表面だけしか塞ぐことができない。
 この洞窟を完全に塞ぐには、崩すのではなく破壊する必要があった。


 剣を構える半次郎は、切っ先にオーヴを集中させていた。
 それは、ある考えからの試みであった。

 ノアから教わったオーヴの知識から、オーヴは体表面にとどめることが可能であると、半次郎は知った。
 実際に試してみると、これが思いの外難しくて上手くできない。

 何度か挑戦する過程で、半次郎はオーヴ自体が反発しあう性質に気付く。
 その性質がオーヴをとどめておく事を難しくしているのだが、これを高密化させた後に一気に解放することができれば、それは爆発的な破壊力を生み出すのではという発想に、半次郎はいたっていた。


 心を無にし、切っ先に全神経を集中させる半次郎。
 体表面にとどめることすら成功していない彼に、切っ先へオーヴを集中させるのは至難の技であった。

 だが、半次郎には強い想いがあった。
 自分にオーヴの知識を与えてくれた、ノアの心に応えたいという想いが。

 そしてその想いは、ほのかな光となって切っ先に宿り始める。


 オーヴを高密化させ始めた半次郎。
 それを目にした今、ノアは確信した。
 この男は数世紀に一人出るかどうかの、オーヴの使い手であると。

「オーヴは密集すると互いが干渉しあい、光をはなち始める。
 その光が目も眩むほどになった時が、オーヴが臨界をむかえた合図だ」
 ノアからの助言に、半次郎はさらに集中力を高めていく。

 徐々に光を増していく半次郎の剣。
 その光が臨界点を迎えようとしたまさにその時、突如として強大な殺気が、二人を背後から襲う。




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