罰が悪そうに八雲から目をそらす大澤。
その姿に笑みをもらす哲哉は、大澤よりも早くパーフェクトピッチングに気付いていた。
だが、その事実をつたえたところでプレッシャーになるだけと判断し、黙していた。
八雲は端から興味がなかったようで、気にも留めてなかった。
試合後、その事について哲哉が問うと、
「そんなもんやったって何か貰える訳じゃないから、興味ねぇよ」
と、軽くあしらっていた。
「で、どうする?
ここで得点されたら、せっかく七点目をとってくれた大澤さんの苦労が、水の泡になってしまうが……」
八雲が九回まで試合をしたがっている事を見透かしての、哲哉からの問い掛けだった。
「抑えるしかねぇだろ。 ここで点をとられたら、織田さんが責任感じすぎて鬱病になっちまう。
……だが、問題は他にもあるぞ」
苦々しくこたえた八雲は、振り返ってセンターの小早川を見た。
「この試合でセンターへの打球が全くないもんだから、しゅうのヤツがご機嫌斜めだ。
一つくらい打たせとかねぇと、試合後にアイツがへそを曲げちまうぜ」
哲哉が視線をむけると、確かに小早川は少し口元を歪めて不機嫌そうに見えた。
自分が把握していなかった事実を当然の如くかたる八雲に、哲哉は驚きの表情をみせた。
だが、それも刹那のことで、頭の回転が速い彼は直ぐさま対処法を導き出していた。
「セオリーとしては次の長谷川さんに三振してもらい、石塚さんにセンターフライを打たせるなんだが、石塚さんには一発があるし、どういう訳かこの試合、あの人には配球がことごとくよまれてる。
下手すれば、スタンドにほうりこまれかねない」
哲哉は小早川に視線をむけた。
「長谷川さんにセンターフライを打たせるとしても、初めての打球処理でしゅうが固くなったら、ピンチをひろげて石塚さんとの勝負になってしまう」
「しゅうも一流のアスリートだっていったのは、てっつぁんじゃないか。
大丈夫、ヤツは仲間のピンチにチョンボするような男じゃねぇよっ!」
仲間に全幅の信頼をおく八雲は、迷うことなくそう言い切った。