「ちょっと、今、思い出した。
子供の頃、お母さんに聞いた事があるの。
猫が天気予報をするのは知ってる?」
「あの、猫がよくやってる、手で顔をこするやつか?」
「そうそう、あれは猫が顔を洗っているらしいんだけど。
朝起きてすぐ、猫が手で自分の顔をこすると、その日は雨が降るって…
でもね、あれは普通の猫じゃダメなのよ。
お母さんがそう言ってた。
あれは、とっても珍しい猫にだけ、その能力が備わっているんですって。
ほかの猫じゃ、天気は当たらないって」
「珍しい猫って?」
「オスの三毛猫」
「三毛猫のオスって、そんなに珍しいのか?」
「めったに生まれないらしいわよ。
三毛猫はほとんどがメスなんですって。
その珍しいオスの三毛猫にだけ、天気予報をする能力があるんだって。
ねぇ、どう思う?」
「うーん、しかしなぁ、この屋敷で天気に関係のある物なんて…」その時、一陣の風が二人の首筋をなでた。
林がざわめき、そして頭上でカラカラと音をたてた物があった。
二人は同時に屋根の上を見上げ、そして同時に叫んだ。
「風見鶏!」
屋根の上の風見鶏の軸の途中に付いてる、風を受けるための風車のような物が、軽やかな風を捕らえて回っていた。
「そうよ、あれよ!
昔の西洋では、風見鶏で天気を占ったって、何かで聞いた事があるわ。
…でも、ちょっと待って。
三毛猫はいいとしても、ピカソとは何の関係があるのかしら?」
友子は急に自信がなくなってきたようだった。
しかし、喜久雄は違った。
「いや、諦めるのは早いぞ。
ピカソは一般的には画家として認知されているが、実はオブジェも数多く残している。
あの風見鶏がピカソの作品じゃないって、そう言いきれるか?」
そう言いながら、喜久雄は屋敷に向かって早足で歩き出した。
「ちょっと、あなた。
あの屋根の上に登る気なの?
あんな急な屋根の、しかもあんな端っこに?」
「一度だけ冒険してみようじゃないか。
二人の夢を捕まえるために」
「人生の、最初で最後の夢ね」