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鹿島の部屋にノックの音が響く。
鹿島が立ち上がりドアを開けると、喜久雄と友子が立っていた。
「どうしました、お揃いで」
「屋根に登りたい。
方法はないか?」
喜久雄が言った。
その目には、強い決意が伺われる。
「屋根に?
しかし、ここの屋根は危険ですよ。
もし、落ちでもしたら…」
「危険は分かっている。
方法が分からないだけだ。
どうしたら、この屋根の上に出られる?」
鹿島はしばらく考えていたが、
「そういえば、三、四年前に雨漏りがした事がありまして、その時、牧野さんが屋根に登って直したことがありましたよ。
牧野さんに聞けば教えてくれるでしょう。
しかし、何でまた屋根の上なんかに…」
鹿島がそう言いかけた時には、すでに二人はドアを閉めていた。
「えっ?
屋根の上にですか?」
牧野はあまりに突飛な質問に目を丸くした。
「そりゃ、方法はありますが、しかし危険ですよ。
けっこう滑りますし」
「どうしても登る必要があるんだ」
「お願い!
教えて、牧野さん!」
二人の必死の様子に、牧野も教える決心がついた。
「分かりました。
なにね、屋根に登るのは簡単なんですよ。
三階の雅則様の部屋にはベランダがありましてね。
そのベランダの壁に、鉄の梯子が付いています。
それが屋根に登るための梯子です。
ですが上に登ったら、くれぐれも注意してくださいよ」
喜久雄と友子が二階に行くと、廊下には鹿島のほかに明彦と深雪もいた。
「本当に屋根に登られるのですか?」
「ああ、登る。
雅則兄さんの部屋から登れるそうだ」
喜久雄はそう言い残して、三階へ向かった。
それを追う友子に続いて、鹿島も三階に行く。
「あたし達は庭で見学しましょうか」
深雪と明彦は一階に降りて行った。
雅則の部屋のベランダに出た三人は、壁にある梯子をすぐに見つけた。
「この梯子か。
ずいぶん錆びてるな」
「この前の夜にここへ来た時には、全然気がつかなかったわね」
「とにかく登ってみよう」
喜久雄は梯子を登って、屋根の上に顔を出した。
屋根はかなりの急勾配で、風見鶏は遥か向こうの端だ。
試しに屋根瓦を指で触ってみた。
指の先に茶色い土埃がくっついてきた。
「どんな様子?」
友子が下から声をかける。