突然、喜久雄が足を滑らせた。
足の裏には土埃が付き、すでに裸足の効果は薄れていたのだ。
彼の体が一気に滑り始めた。
友子が悲鳴を上げた。
しかし二、三メートル滑った所で、喜久雄は踏みとどまった。
そして彼は再び上を見上げると、また前進を開始した。
三十分後、彼はようやく風見鶏に到着した。
その心棒につかまり、ようやく一息ついた。
荒い息を整えながら、彼は風見鶏を調べた。
その金属製の鳥の部分に、何か書いてあるのが見える。
喜久雄は心棒につかまりながら立ち上がった。
そこには、こう書いてあった。
『危険だから
早く降りなさい
こんな危ない場所に
隠したりはしない
あしからず 』
それから三十分後、喜久雄はなんとか無事に梯子を降りてきた。
全身が土だらけの姿で。
「どうやら僕達は、間違えたようだよ」
笑いながらそう言った喜久雄に、友子が抱きついてきた。
喜久雄の背中をしっかりと抱き、その胸に顔を埋めた。
「もういい」
彼女は言った。
「もういいの。
私、何もいらないから…
何も欲しくないから…
普通でいいから…
だから、もうやめよう…
ねっ…
こんな事、もうやめよう」
そう言って、喜久雄の胸の中で、子供のように大声で泣き出した。