七色の金魚?

MINK  2006-08-30投稿
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私は、金魚鉢を買ってマンションへ戻った。
その少し小ぶりの金魚鉢はいたって普通の金魚鉢なのにその中を泳ぐ七色の金魚のおかげでほんの少し違うものに見えた。
私は、窓辺の机の上に金魚鉢を移動させてキラキラ輝く金魚を見つめていた。

彼が、初めてくれたプレゼントを私は今でもちゃんととっておいてある。
きっと、それは他の人が見たらとても大したものではなかった。
それでも、私にとってはもの凄く大切なものだった。
それは、ガラスの指輪だった。
子供のおもちゃの指輪だった。
水族館にデートに行ったときにそっと買っておいてくれて、帰りの車の中で貰った物だった。
そういう驚かすことの好きな人だった。
「今は、本物の指輪をあげれないけれど、きっともっと素敵な指輪をあげるから」
そう言って、そのおもちゃの指輪を私の指にはめてくれた。
少しだけ緩かった指輪だけれど、私はずっと付けていた。今は、思い出が辛すぎてはめれないのだけれど。
「これでも私は嬉しいよ」
そう言って、彼にその指輪をはめた手を見せて笑った。
そんな私を見て彼も笑った。よく笑う二人だった。
何にでも素直な彼が本当に好きだった。
優しい人だった。
花を見て、星を見て、夜景を見て、蛍を見て、花火を見て、海を見て、空を見て素直に綺麗だと言える人だった。
私は、彼のようになりたいと思った。だから彼に近づこうと素直でいることを心がけた。
「そのままのユリが好きだから」
そう言って、優しく笑った。そんな彼の笑顔が私はたまらなく愛しかった。

金魚鉢の中を少し満足気に泳いでいる金魚が羨ましくなった。
「あんた、名前なんにしようか」
私は、誰に言うでもなく呟いた。
「…ヒロ…」
その名前はどれくらいぶりに口にしただろう。
窓から流れ込んだ夏の風に当たりながら、机にしがみついて泣いた。
誰かに聞かれるわけでもなかったのだけれど、声は堪えた。
涙は、まだ枯れない。



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