「じゃあ、その他何か聞きたい事は。」
「あの…。」
カズヒロが急にかしこまった。
「東条アキさんを、ろう学校へ転向させる話を耳にしました。」
「あなた…聞いてたの。」「はい…。でも、誰にも言いません。もちろんこの話で、アキを責めたりしません…。」
「そう…。」
私のことについて話してる…。
「何で、そんな事言うんですか?」
「この高校じゃ、耳の聞こえないアキさんにとって、障害が多すぎるから…。」「アキさんは、この学校じゃ、救えないって事ですか。」
「別にそんな事言ってないじゃない。それに、この事について、まだ高校生のあなたに何ができるっていうのよ。」
…もめてる…。
アキは、唇の動きをじっと見る。
「俺に出来ること、たくさんあります。」
「…。何なの。」
「励ましてあげたり、その障害を支えてあげたり。少なくとも先生より近い場所で。」
最後、唇の動きが早くて分からなかった。
カズヒロは、
「失礼しました。」
と言って、強引に部屋を出ていった。
先生も、呼び止めはしなかった。イライラしていたのだろう。
アキは、とっさに隠れようとしたが、無理だった。
「ちょっと…話したいことがあるんだ。」
『?』
「学校じゃないところで、話がしたい。」
近くのレストランで、カズヒロは、
「ごめん…。先生と話したんだけど、けっこうギクシャクしちゃって…。」
アキは、それを聞いて、ノートを取り出し書き始めた。
『私は平気』
「私は…平気?」
カズヒロは、ノートの言葉を繰り返した。
アキは、頷いて笑ってみせた。そして、ノートの続きに、
『ありがとう』
と書いた。
カズヒロは、そんなアキが、かわいそうで仕方なかった。