覇王は鼻で笑うと、
「ふん、くだらない言い訳をするな。どの道、ジョナを報告に寄越したから問題はないがな。治安部隊ごときが情報を遮断しても、他のルートからすぐに伝わる。」
そう言い、さらに言葉を続けた。
「どうせ光の子供を取り逃がしたことで罰を受けるのを恐れたのだろうが、今回はまあ容赦してやろう。どの道、お前達の手に負えるとも思ってはいなかった。」
覇王にしては珍しい情けだった。ハントは絨毯を見つめたまま、内心ほっとしていた。馬鹿にされているのだろうが、それはいっこうに構わない。そんなことに拘泥するような余計なプライドを、ハントは持ち合わせていなかった。
しかし、急に目の前の床にドスン、と立てられた剣の先に、ハントは体を強張らせた。
「しかし、どうにも腑に落ちない。」
覇王の声の質が変わった。
「あれほど光の子供のことについては報告を欠かさぬように命じていたはずだ。それをそんなくだらぬ理由で裏切るなど、狡猾な貴様らしくないではないか?」
ハントは顔を上げかけたが、うなじの上に剣の刀身を置かれることで、それを阻まれた。
闇そのもののような、どす黒い重さを伴った声が、静かに上から降ってきた。
「どうした、今更反抗するなど。光の子供に、珍しく期待など抱いていたのか?」
ハントは心臓を鷲づかみにされた。思わず上手い言い訳も浮かばず、覇王の発言を肯定するように口をつぐんでしまう。
「……図星か。」
覇王は、剣を引き抜いた。
ハントはとっさに反応すると、這いつくばった体制から素早く絨毯の上を転がり、執務机を飛び越え、机を防護壁にして覇王と対峙した。
覇王は鋭く光る切っ先をハントに向けると、燃えるような目でハントを睨みつけた。
「この大事な時期に、裏切りを許すわけにはいかない。」
ハントはぶるっと震えた。演技ではない。覇王の中で、異常な力が錬成されつつあるのが、手に取るようにわかる。剣を抜いた瞬間から、覇王は最強になるよう、舞子によって「想像されて」いるのだ。どの程度の力を操るかは覇王次第だが、今彼の中に湧き上がりつつある力は、ハントを潰すには充分すぎるものだった。
「……この段階で、裏切ったと断定するのは早計では?」
額に浮いた汗がこめかみを伝うのを感じながら、ハントはできるだけ冷静な口調で言った。