しばらくの沈黙の後に、アキは、
『手話って分かる?』
「手話…。まあ、趣味でやってた。」
するとアキは、ノートをしまって、手話で話し始めた。
『良かった。いちいちノート出して書くの、面倒で。』
カズヒロも、手話で答えた。
「俺も、趣味が生かせて良かった。」
…普通のカップルみたいだった。
あの時の俺は、アキの耳が聞こえないという現実を、忘れかけていた。
『そういえば…カズヒロの友達。もしかして×ゲームじゃんけんやってた?』
「ごめん。俺から謝るよ。あとで2人にも謝らせるから。」
アキは笑っていた。
『もう〜。』
…あの時の私は、面談の時に私をろう学校に行かせまいと頑張っていたカズヒロを見て…。
カズヒロを見て…。
「ごめんね。付き合ってもらって。」
帰り道のこと。カズヒロと別れるとき。
「じゃ、俺こっちだから。」
『わかった。じゃあね。』「また明日。」
暗がりの中に消えていくカズヒロの背中。
アキの顔は、笑顔に満ちていた。