アキの家。アパートの2階。
父親は、病気で亡くなってしまった。
家庭は、決して裕福とはいえないものの、母と2人で仲良く暮らしていた。
「おかえり。遅かったじゃない。」
『ごめんね。用事があったの。』
そう伝えると、アキは父の仏壇に手をあわせた。
…お父さん。
私は、今とっても幸せです。
耳が聞こえない私を、分かってくれる人ができた。
支えてくれる人が出来た。…まだ好きかどうかは分からないんだけど。
「アキ!ご飯。」
『おいしそう。』
「帰りが遅いもんだから、ちょっと冷めちゃったけどね。」
『でもおいしそう。』
すると、母がアキの異変に気付いた。
「どうしたの。なんかニコニコしてるじゃない。」
『別に何でもないよ。』
「本当に?彼氏とかできた?」
せかす母を、アキは煙たそうに追っ払う仕草をした。「何よ〜。まあ、詳しくは聞かないけどね。」
『聞かないでくださいね〜。』
アキは少しおどけて、自分の部屋に入っていった。