行ってしまう。
私に背を向けて、アルファがまた、行ってしまう。
私はその背中にすがりついた。
「…ソフィア?」
「行かないで…」
「…そんな事言ったって、行かなきゃ…」
「怖い。…独りに…なりたくない」
「・・・。」
彼はおもむろに振り返って、私の頭に手を置いた。
「俺があんな奴らにやられると思う?」
そして、くしゃくしゃと髪を乱すように、私の頭を撫でた。
「すぐ戻ってくるから、少しだけ待ってて」
そう言って笑った。
何も言えなかった。
苦笑じゃない、アルファの笑顔。
暖かかった。
またくるりと向き直って、彼は歩きだした。
私はそれでも彼が気になって、物陰から彼らを覗いた。
先頭の男が、背負っていたリュックサックを降ろし、中身を取り出し始めた。
確か、銃器の使用は禁じられていた筈だ。
なら、あれは…?
など考えていると、『それ』が完全に姿を現し、けたたましいモーター音が鳴り響いた!
「良いのですか?本当に…」
緊張した声が、またこの部屋で木霊した。
「銃器の使用を禁止する、とは確かに言ったさ。だが、チェーンソーの使用までは禁止してはいない。それに、何も生け捕りにする必要はないのだからな」
「で、ですが、あの男は…」
「フン」
下らない、と口にする変わりに、ドーランドは鼻で笑った。
「し、失礼しました…」
この男には血も涙も無いのか。部下は、きっとそう思った事だろう。
つい、一昨日のことだ。
ドーランドは、ある情報を小耳に挟んだらしい。
所謂賞金稼ぎが、手配犯の位置情報を交換し合うインターネットの掲示板。
そこには、彼らの大まかな位置まで特定出来ていたのに、あまりにアルファが強すぎて返り討ちにあったという書き込みがあった。
ドーランドはすぐさまその掲示板を見つけ、チェーンソー使用の許可を出した、と言うわけだ。
「まあ私は、あの男ならどうにかここを切り抜けると思っているがね。
こんな早くに終わらせては、遊び甲斐がないではないか」
その後には、不気味な笑い声が、響くばかりであった。