「もしもし、石川だけど…」
お昼休みの時間を見計らって、下原文子に電話を入れた。
「もしもし。急がしい時にごめんね」
「全然ですよ〜。今だって、1人ランチしてたし(笑)。」
「ごめんね。明日から、昼飯一緒に食べようか?…」
「はい!」
「ところで…下原さん、休みはとるの?」 「え?」
「いや、こうやって、友人と旅行に出ている俺が言うことじゃないけど、うちの会社、ゴールデンウイークと、お盆以外でも、連休取れるように奨励してるじゃない。あまり出歩かないって言ってたし、取らないようなことも言ってたからさ…」
「そうですね。…もし取ったら、石川さん、どこかに連れて行ってくれるんですか?」
「え?」
文子の直球的な質問に、哲彦は戸惑ったが、彼女の心が、自分にまだあることに、罪の意識を感じていた。
「もちろん。でも、それって、前のような日帰りじゃなくて、泊まりでっていう意味なんだけどね」
「OKですよ〜。私もそのつもりで言ったんですよ〜。」
「本当に?」
「はい。私も子供じゃないですから。石川さんが、そう希望するなら、喜んで行きますよ〜」
「ありがとう。じゃあ、都合のいい日に、そんな話をしようか?」
「はい!喜んで」
電話を切った哲彦は、文子がいつになくテンションが高めになったことに、嬉しさもあったが、逆に申し訳なさも感じていた。
麻由とのこともあるが、麻由はこれから、学校と実習と課題やることがあるからだ。
それを考えると、哲彦には 、本当に、このまま麻由と関係が続けられるのだろうか?と言う疑問もあるからだ。
いつか、お互いの心が離れるんじゃないか?麻由を、このまま、何年も待っていられるのだろうか?
様々な考えが、哲彦のなかで、めぐらされていた。
だが、こうして、恋愛的なことに悩むことに、かつてのトラウマが、なくなっていることにも、ホッとしていた。
「思えば、旅行に行ったことで、かつての傷も癒せたんだな…義に感謝しなきゃなあ…」
哲彦は、しみじみと思った。