「あ、寝てなきゃダメじゃん」
入ってきたのは、結城くんだった。
予想外の登場に、私の心臓は一瞬跳ね上がって、そこから凄い音を立てて動き出す。
「だ、大丈夫だよ! 授業受けなきゃ勉強遅れちゃうし」
「別にいいじゃん。とにかく寝てなよ」
そう言うと、結城くんは私の背中を押しながらベットに向かった。
私がベットに座ると、結城くんは持っていた缶ジュースを私に差し出した。
「ありがと」
私がそれを受け取ると、結城くんは私が持っていたタオルをスルッと抜き取って水道の方に歩いていった。
「私、倒れたんだ?」
「うん。ちなみに、俺が運んだ」
「そうなの?! ご、ごめん……ありがと、ね」
「いいえ」
結城くんが運んでくれたんだ。
嬉しいような嬉しくないような、複雑な気持ち。
でもまたこうして結城くんと話せた。幸せだあ。
「角田さんって、彼氏いるの?」
「いないよ! いるわけないじゃん」
「へー。何か意外」
そう言うと、結城くんは私の横に座った。
ヤバい。結城くんが、私の横に!
「ねえ。今度の土曜、ちょっと付き合ってよ」
「え?」
「だめ、かな?」
「いやいやいや! だめじゃないよ!」
むしろ、嬉しいです。
「よかった」
結城くんはにっこり笑った。
ああ、結城くんの笑顔がこんなに近くに……。
また倒れそう。何てね。
「結城くん、ありがとうね。もう授業に行っていいわよ」
保健室の先生───五十嵐先生が入ってきた。
先生、来るタイミング悪すぎです。
雰囲気が、せっかくの雰囲気が……。
「いや、もうちょっといます」
「ダメよ。ちゃんと授業受けなきゃ」
先生がそう言うと、結城くんは立ち上がって振り返った。
「土曜日、駅前の公園で待ってて。じゃ、お大事に」
「う、うん。分かった。ありがと」
結城くんは保健室から出て行った。
すると先生が私の方に近づいてきて言った。
「先生、邪魔だった?」
「い、いえいえ!」
私は嘘をついた。