『耳が聞こえないくせに、調子乗ってんじゃねぇって。』
カズヒロは言葉を失った。『その言葉を、ノートにまで書かれたの。』
カズヒロが私を抱きしめる力が、だんだん強くなっていく。
『そして何回も見せられた…。』
「ごめん。俺、気づけなくて。」
アキは首を横に振った。
『いいの。謝らないで…。』
カズヒロの涙が、私の頭に落ちた。
私が顔をあげると、大泣きしているカズヒロがいた。『もっと…あるんだけど、聞いてくれる?』
カズヒロは頷いた。
『私がいじめられている光景を、柴山先生が発見して、また私と柴山先生の話し合いが始まって…また勧められたの。』
「…ろう学校?」
アキは頷いた。
『私は前と同じように反対したの。でも先生、私に凄く酷い事を言ったの。』
「…何て?」
カズヒロの涙。アキも、これを伝えるのは、もっとカズヒロを悲しませることになると思うと、手話が止まる。
「いいよ。俺は平気。」
『ここは…ろうの人が通う学校じゃないって…。』
カズヒロは、アキを強く抱きしめた。
「泣いていいよ…。俺の服を濡らしてもいい。アキが、つらくなくなるまで、ずっと、こうしてるから。」『…。』
「ずっとこうしてる。そしてアキのこと、様々な障害から守ってやる。まだ未熟かも知れないけど、俺はアキが好きだ。俺はアキを愛してる。アキの耳が聞こえなくても、俺がアキの耳を復活させてやる。」
俺が、俺がって…。
言い続けていても、
アキは、ただ泣いていたね。
アキへのいじめ、
先生の酷い一言が、
どれだけ、つらかったか。俺には分からないかもしれない。
分からないかもしれないけど、俺はアキの一番近くにいるから。
たとえ世界中の人が、アキの敵に回っても、俺だけはアキを守るヒーローになる。
弱っちいかもしんない。
銃ですぐ撃たれるかもしれない。
でも、死んでもアキを守ってみせる。
俺は、1人でそう誓ってた…。
もし魔法が使えるなら、アキの耳に魔法をかけてやりたい。
アキの耳が、聞こえるようになりますように。って。