「ねぇアキ。風が強くなってきたな。」
『…うん。風の音って、どんな音?』
カズヒロはアキをそっと座らせ、ノートを取り出し、『ビュービュー』
と書いた。
「これが、強い風。」
『じゃ、弱い風は?』
「そよそよ。ほら、そよ風とか言うじゃん。」
何気ないやりとり。
『あの木は、どうやって揺れてるの?』
アキは、街路樹を指差した。
「ザワザワって揺れてる。ザワザワ、ザワザワ。」
カズヒロは、少しおどけてみせた。
『ザワザワ?』
「おぅ。」
2人の涙は、自然と乾いていた。
そんなやりとりが、どの位続いたのだろう。
また、幸せな時間が戻ってきた…。
と思っていた。
カズヒロとアキがいちゃついている光景を、じっと見る1人の女性。
「アキ…?」
『ねぇ、私の事、どれくらい好き?』
するとカズヒロは、夜空を指差した。
「宇宙の果てまで行くくらい好き!」
『それじゃ分からない!チューして!』
「えっ…ここで?」
『いいじゃない!チューして!』
…何してるのアキ…。
キスしてる2人。
…お母さんをこんなに心配させといて…。
焦りを隠せない母親は、早足で2人の元へと向かう。
…何してるのよ…
『私も好き。カズヒロのこと。』
「それ何回も聞いていたいよ。」
…ねぇ…
…アキ…!!