子供のセカイ。195

アンヌ  2010-08-10投稿
閲覧数[417] 良い投票[0] 悪い投票[0]

(くだらねぇ。情が移ったか?)
これ以上覇王の機嫌を損ねる方が危険だというのに。みるみる険しい顔になっていく覇王にハントは胆を冷やしたが、その時、執務室のドアがノックされた。
「覇王?入るわよ。」
少女特有の高い声がくぐもって聞こえ、返事をする前にドアが開かれる。
ひょっこりと顔を覗かせたのは、舞子だった。
舞子は中にハントがいたのに驚いたのか、一瞬びくっと肩を持ち上げた。
「……なんだ、ハントもいたのね。」
「おはようございます、舞子様。」
ハントは恭しく頭を下げたが、舞子は嫌な顔をした。白のドレスを翻し、精一杯素知らぬ顔をして、覇王のいる執務机へと近寄っていく。
自分が怖がられているというのは、もうずいぶん前から気づいていたので、ハントは気にも留めなかった。幼い舞子からすれば、ハントはいかにも柄の悪い青年にしか見えなかったので、当然といえば当然である。ただし、ハントが舞子に余計な入れ知恵をしないよう、覇王が二人を引き離しているというのも事実だった。
「ねぇ、聞いてよ、覇王。夜羽部隊をもう一度作り直そうと思ってね、アリアにも協力してもらってるんだけど、ちっともうまくいかないの。前と同じ子達が、どうしてもできないのよ。」
舞子は机にもたれかかるようにして覇王に訴えた。覇王は舞子が現れると同時にたちまち表情を和らげていたが、今度はやれやれといった様子で肩をすくめ、優しく舞子の頭を撫でた。
「それはそうだよ。粘土や絵なんかと一緒だ。一度作ったものをもう一度作り直そうとしても、例え最初に作った人間だってまったく同じようにはいかないだろう?」
「……そっか。そうよね。」
舞子はすぐに納得した顔になり、ふむふむと頷いている。頭の悪い子ではないのだ、と、こういう時にハントは思う。しかし、ではなぜ舞子は覇王の言いなりになっているのかといえば、答えは一つしかない。
(あのジーナとかいう女には、舞子様は覇王様に躍らされいるというような事を言ったが、半分はそうじゃねぇ。)
舞子様が自らこの計画を望まれたんだ。ハントは苦い思いで、唇を噛んだ。
その時、突如ハントは、名案を思い付いた。
「舞子様、捕らえた二人の影を、どうされるおつもりですか?」
ハントはかしこまった姿勢のままで言った。影、とは、光の子供の想像物――ここではジーナと王子の事を指している。



投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 アンヌ 」さんの小説

もっと見る

ファンタジーの新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ