《拝啓 あなたへ》
―彼はいつもどこかを見ていた。どこか…そう、誰にも分からないようなどこかを。その瞳は私に向いたことがあったのだろうか?―\r
彼との初めての出会いはごく普通のものだった。ロマンチックでもなんでもない、ごくごく普通のものだった。
高校を中退した私は、夢も憧れもなく、ただ、なんとなく毎日を過ごしていた。
ある日、無性に外に出たくなった私は、わざわざ遠くにある方の映画館に出かけた。
その日は平日だったので友達はみんな高校で、仕方ないから一人で映画を観ることにした。
全米第一位の大ヒット作だった。
凄く面白い…はずなのに………。
観てると突然、虚しさが込み上げてきた。
あの時と一緒だ。妥協して快楽に耽る、あの行為を終えた時と。
その度に私は『虚』に押し潰されそうになる。
満たされたと思った次の瞬間にはもう、私の心は空っぽなんだ。
だから私はまた繰り返す。空っぽの心を満たそうとして。
…まるで穴のあいた器で水を掬うかのように。
「何やってんだろ、私。」
映画を途中で抜け出した私は、一人そう呟いた。
外に出るとまだ昼だった。
太陽の日差しが暖かで、おもわず笑顔が零れてしまいそうになる心地のよい天気だ。
そんな天気とは裏腹に、私の心は曇り空。
心が晴れないまま、目的なくただ歩き続けた。
そうして辿り着いた先が、あのファーストフード店だった。
そこで私は彼に出会ったのだ。後々、私の人生を大きく変えていく事になる彼に。
ほんの偶然だったのかもしれない。
単にお腹が空いていただけなのかもしれない。
でも私は、その出会いに運命というものを感じる。私たちは出会うべくして出会ったのだと。