拝啓 あなたへ 【No.2】

受験生  2010-08-10投稿
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彼は窓の外を見ていた。
どこを見るとでもなく、ただ窓の外を見ていた。
賢そうな顔だった。
机の上には紙と鉛筆が置いてある。
紙の上には、何やら解読不能な文字や記号の羅列。
ほんの少し興味が湧いて、彼の後ろから覗き込んでみた。
見ても解るわけないのに。
彼は気付いていないのか、まだ外を見ている。

「この席、座っていい?」
彼の前の席を指差して訊いた。
反応はない。
「この席、座ってもいいですか?」
少し声を大きくして繰り返した。
彼はやっと気付いたようで、
「何?」
と真顔で返してきた。
ちょっとムッときた。
"何よ、それ?てか、逆ナンされてることくらい気付けって。"
そう思いながらも、少し恥ずかしくなってきた私もいて、
「この席…」
と言ったところで、不覚にも顔を赤らめてしまった。
「ああ、いいよ。別に。」
彼は続きの言葉を察知して、興味なさそうに答えた。
ちょっとショックだった。
こう見えても私は結構モテる。
正直、自分でもかなり可愛い方だと思う。
十七年生きてきて、フラれた事は一度もない。
街でもよくナンパされる。
事実、さっきも、歩いてて二度も誘われた。
もっとも、不釣り合いだと思ったから二回とも断ってやったが。
"絶対、私に夢中にさせてやる"
妙にムキになって、心にそう誓った。
その日は何もなく帰った。
あの後、彼は時々紙に何か書き込んでは、また外を眺めていた。
私もまた、そんな彼を眺めていた。
思慮深そうな顔だった。
何か思い詰めた顔でもあった。
なぜか私はそれが無性に心配だった。

帰ってから、メールアドレスを訊いていないことに気がついた。

次の日、私はもう一度、あのファーストフード店に出かけた。
朝から雨がシトシト降る、気持ちの悪い天気だった。
出かける時、母に
「あんた、まさかまた男遊びじゃないでしょうね。」
と言われた。
はは、鋭い…。
実は私、今までに何度か検挙されてます。
その度に母は私の前であからさまに大きな溜め息をつくんだ。
そう言えば、最近親に名前で呼ばれてない。
まぁ、どうせ高校中退の出来損ないだしね。
…なんて、そんな事を考えているうちに、目的の場所に到着した。

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