「なんだ、孝子?」
「ピカソに関する物が、まったくなかったわけじゃないわ。
トランプの箱にピカソの絵があったもん。
ただ深雪姉さんはそれを追いかけて、行き止まりにぶつかっちゃったけど」
「じゃ、孝子に聞くが、深雪がトランプからたどった道の途中で、どこかで間違えたという事はないか?
途中で脇道にそれたとか」
「それはないと思う。
あのトランプは最初から罠だったのよ」
「じゃ、俺のときと同じだな」
明彦は麻雀牌からたどって、庭の木の根元を掘るまでの経緯を、かいつまんで話した。
それを聞いていた喜久雄が深刻な顔をする。
「これは想像以上にタチが悪いかもしれませんよ。
今の兄さんの話を聞いて思ったのですが、あの四角いレモンパイ、あれはもしかしたら四角いパイから麻雀牌を連想させて、罠に誘い込もうとしたのではないでしょうか?」
「そうかもしれんな」「だとしたら、大変なことですよ。
見付けた手掛かりを追ってみて、行き止まりにぶつかってから罠だと気づく。
それじゃあキリがない。
確かに雅則兄さんの言ってたように、これは迷路なのかもしれませんね。
複数の入り口のある迷路です。
その中で正しい入り口はひとつ。
ほかの入り口から入れば行き止まり。
だからこのままじゃダメですよね。
正しい入り口と間違った入り口を区別する事が出来なくては。
とにかく時間がないし、行き止まりまで行ってまた戻ってくるんじゃ、とても間に合わない」
「ねぇ、あたしの言う事も聞いてくれる?」
深雪が自信なさそうに言う。
「雅則兄さんはテープの中で、入り口を示す手掛かりが、あれにあるって言ってたでしょ」
彼女は食堂のドアに掛かっているスマイル君を指差した。
「それでね。
いろいろ考えた結果なんだけど、このスマイル君がドアに掛かっている部屋には、間違った手掛かりしかないんじゃないかって思ったのよ」
「だが、こいつは全部のドアに掛かってるぞ」
「いいえ。
ひとつだけ掛かってないドアがあるのよ。
地下のワイン貯蔵庫に行くドアだけにはないわ」
「やっぱりあそこか」
明彦が言った。