カチリ。
車のドアに手をかけた音。
それとほぼ同時に、ドアは勢いよく内側から開き、開けようとしていた圭司を突き倒した。
そして。
そいつはいた。
明滅する白い光の下に、圭司にのし掛かる化け物。 大きな焦げ茶色の身体。
たるんだ頬…だらりと垂れたピンクの舌。
愚鈍な目に浮かぶ狂気じみた小さな光。
低く、背筋の寒くなるような 唸り声。
それが、犬だとわかるのに随分時間がかかった。
いや、実際は0,何秒かなんだろうが。
それは余りに大きく、
あまりに俊敏で、次に起こる動作を予測したにも関わらずどうにも出来なかった
次の瞬間、そいつはのし掛かかり、下敷きにした圭司の喉笛に噛みついた。
ぐうっ、という小さなくぐもった声が、圭司の上げた声で…その声はまさに僕らの意識を目覚めさせた。
真横にいた拓斗は、走れ!と叫び僕の方へ突進した。
僕らは振り返ることを許さず、とにかく走った。
アスファルトをひたすら下る。
圭司。
その名前が頭に回りながらそれでも走っていた。
拓斗は僕を追い抜き様、血走った目をよこした。
僕らはこれ以上ないくらい必死で走っていた。