べちゃべちゃした靴と、三時間も歩き通した疲労とが脳内のアドレナリンに勝るのに時間はかからなかった
下りとはいえ、足は何回も縺れ鈍くなる。
それは拓斗も同じらしく、全速力だった足は勢いを失ったチョロQのように唐突に動きを止めてしまった。
僕らは並行に並び、お互いの息がヒュウヒュウ鳴っているのに気づいた。
喉は張り付き、喘ぐ肺からは吸った息が 慌ただしく吐き出される。
拓斗は恐怖にかられた、掠れた声で
「あれ、なんだよ」
と小さく呻いた。
「なんだよ、あれ…なんなんだよ」
「…い、ぬだよ」
たった一言さえ、うまく発せられない。
「犬?あ、あんなでかい…信じらんねえ…あ、あいつは圭司を…」
その先は、呑み込んでしまった。
走る、よりは歩くに近いペースで進む。
話しなど本当は出来ないくらいしんどいのに、何か言わないとおかしくなりそうだ。
「あれは…圭司を殺した」
拓斗は噛み締めるようにゆっくりと吐き出した。
たった一つ残されたザックの重みが一気に倍増したかようだ。
そうだ。
疑いようのない事実。
圭司は死んだ。
あの、一瞬で。