信じられなかった。
そういえば最近、生理が止まっていた。
けれど、それは体調が悪いからだと思っていた。
する時は、ちゃんとゴムをつけさせていたし、そうしなかったのは安全日だけだった。
正直、誰の子か分からない。
親は何も言わなかった。
呆れて何も言えなかったんだと思う。
ただ、溜め息をついていた。
その時点では、『堕ろす』という選択肢しかなかった。
両親にも、私にも。
産婦人科のある病院は、あの店の近くだった。
母と病院へ行く途中、私は急に彼に会いたくなった。
母に、飲み物を買ってくると言ってあの店に入った。
珍しく、彼は私の姿にいち早く気がついた。
「どうして今日は…?」
と尋ねると、
「昨日いなかったから、もう来ないかと思ってた。」
と、ちょっとズレた返答。
「昨日はちょっと…体調が悪くて。」
嘘じゃない。少し、はぐらかしたけど。
「そう。大丈夫?」
「うん、一応ね。」
「気をつけなよ。身体には。」
彼の優しい言葉に、本当の事を言えない私は心が痛んだ。
「じゃあ…私、行かなきゃ。バイバイ。」
そう告げると、彼は黙って手を振った。
店を後にしようとした時、ふと後ろを振り返ると彼はまた外を見ていた。"
言わなきゃ"と思った。
このまま帰れば、もう彼には会えなくなる気がした。
気がつくと私は、彼の前まで戻っていた。
「どうしたの?」
彼は不思議そうにこちらを見た。
「…本当はね、……昨日、病院に行ってたんだ。そしたら妊娠してるって言われて…。誰との子かも分からないのに…。私、もうどうしたらいいか分かんなくて。」
なぜか私は泣きじゃくっていた。
周りの視線を感じたが、気にならなかった。
彼もまた、気にしていないようだった。
「良かったじゃないか。」
彼は時々、突拍子もない事を言う。
本当に私の話を聞いていたのだろうか。
「なんで『良かった』なのよ。…これから堕ろしにいくんだよ、私。」
「ダメだよ。そんなの。」
「なんで?私の問題じゃん。」
「君の子どもの問題でもあるだろ。なんなら訊いてごらん。私のために生まれるの諦めてくれますかって。」