「そんな事言ったって…。」
「こんなに素晴らしい世界を…青い空や広い宇宙、暖かい日差し、小鳥の囀り(さえずり)や皆の笑い声…そういうの知ることもできずに死んでいくなんて、自分の生が認められることなく終わってしまうなんて、そんなの…悲し過ぎる。」
彼の言葉には重みがあった。
何か、言葉の表面ではなく、奥深くに含まれた哀しみの響きを感じた。
私の心に、我が子に対する憐れみが生まれた。
それはいつしか、愛情へと変わっていった。
私はこのことを母に伝えた。
母は猛反対をした。
そして尋ねた。
どうして急に思いが変わったのか、と。
私は少し躊躇った(ためらった)が、素直に話すことにした。
話しながら、母の顔がひきつっていくのに気がついた。
話を聞き終わるや否や、母は血相を変えて店に入った。
大きく成長した雷雲を前に、私は為す術がなかった。
「他人(ひと)の事情に口を出さないで!」
一歩遅れて私が店に入ると、もう雷は落ちていた。
母は、私の話から、彼という人物を見つけ出していた。
被害者多数。
黙らせろとでも言うように、近くにいた客が一斉にこちらを見た。
あれはもう無理だ。
ああなったら止めようがない。
「どなた…ですか?」
かなり察しの悪い彼。
「もう…やめてってば。彼は関係ないでしょ。」
と私が母を止めに入ったところで、やっと気付いたようだった。
「あなたは黙ってなさい。」
母は私を一蹴。
「あなた、子ども育てるのがどれだけ大変か分かってるの?」
雷が、海に浮かぶ小さな小舟を襲う。
「分かりません。」
"そこ、あっさり肯定かよ。"
と思わずツッコミそうになっていると、彼は言葉を続ける。
「分かりません。でも、命の重さは分かっているつもりです。」
少し強い口調になった。
彼の言葉には信念というものが感じられた。