拝啓 あなたへ 【No.6】

受験生  2010-08-12投稿
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母は一瞬怯んだようだった。

しかし母も負けてはいない。
「あなたの言いたいことは分かるわ。でもね、どうしようもない時もあるの。現に法律でも認められてるでしょう。」

「法律が問題じゃないんです。その命の尊さは、法律によって疎外されるべきものではないんです。だって、育てられないから堕ろします、なんて親のエゴでしょう。命とは可能性なんです。せめて目の前にある可能性くらい、僕は守ってあげたい。」

「その子の親は分からないのよ?遊び半分な気持ちで自分ができたなんて知ったら、きっとその子、不幸だわ。可能性なんか最初から無いの。」

「数年前の僕なら、そう思っていたでしょうね…。本当は可能性なんて無限大なんだ。 あなたは…きっと、まだ誰も失っていないからそう思うんだ。誰かを失った人なら、たとえ望まれて生まれたものでなかったとしても、目の前の命を放り出したりしない。どんなに小さな可能性でも、それが意味の無いものだとは思わない。意味の無い人生なんてものは、世界に一つだってないんだ!たとえそれが数年の命でも、数分間の命であったとしても。"生きる"事に意味があるんだ。……今は、大人や学生でさえ死んだような人ばかりだ…。僕も以前そうだった。でも赤ちゃんは違う!今、確かにその子は…彼女のお腹の中で必死に"生きようと"してるんだ。親の事情なんか関係なく。それでもあなたは捨ててしまうのですか?その可能性を。僕は許せない…!そんなこと。」

彼の目は涙で光って見えた。

雷雲はいつの間にか去って行き、太陽の光が顔を出した。
「子どもは自分で育てなさい。」
それだけ言って、母は帰った。
なんとなく、母の顔は緩んで見えた。
久しぶりに昔を思い出したのだろうか?

「ハイ。」
私は少し潤った目で、元気よく返事した。

いつしか私達二人…いや、三人は、暖かい視線に包まれていた。

「ありがと。」
と、彼の頬にキスをした。
二人の距離が初めてゼロになった瞬間だった。
彼は頬を赤らめた。
そうしてまた、外を見た。



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