「あっここです!」
手を振るかすみに気づいた義人は、小走りに駆け寄った。
「ごめん。待たせちゃって。帰りの準備とかしてたんで…って、理由にもなってないけど」
「ううん…」
かすみは、申し訳なさそうに首を横に振った。
「こちらこそごめんなさい。帰る日に時間を作ってもらえて…」
「じゃあ、飯でも食いながら話しますか?ちょうど昼時だしね」
「はい」
とりあえず、駅前のレストランは、昼前とゆうこともあり、混雑していた。
かろうじて、カフェが空いていたので、そこで話すことになった。
「さて…こうやって君と話すのは、2度目だよね?」
「ええ…」
「近況はどう?俺は、相変わらず仕事と趣味と旅と…変わらない生活だけどね」
「私もですよ。あんまり遊ばないです」
「そう…恋愛とかは?」
「残念ながら…私自身それについては、ちょっと引いてるのかも…」
「そう…俺もかな。いろいろ行動してるんだけどね。あと一歩が踏み出せないのかな…ただの意気地なしかもしれないけどね(笑)」
「それは、私もです。きっと、最後の一歩を踏み出せない理由が、無意識にあるのかも…」
「そう…でも、君に好意を持ってくれている人は、きっといるんじゃないかな?
例えば、哲とか…」
義人は、あえて哲の名前を出した。
かすみの哲彦に対する真意も聞いておきたかった。
「そう…ですね。きっとあの人は、私に好意を持っていてくれていたんだと思います。でも…違うんです。私…どうしても、気になっていたんです」
「え?」
義人は、ある程度かすみが、自分を呼び出した理由を察していた。
だが、かすみが、自分に対しての思いを言い出せないでいることが、なんとなく自分と似ているので、かすみが言い出すことを待つことにした。
「義人さん?」
「うん」
「もしかして、深い心の闇を…持ち続けているんじゃないんですか?」
「心の闇?」
「はい…。義人さん、きっと恋愛に対して、なかなか取り払えない闇を抱えてるんじゃないかなって
…」
かすみの指摘は、当たっていた。
義人には、あの日のことが、心の闇としてまだ残っていた。
…それでも、かすみは切り出した。
「私は…」