「どうしたの?」
自分の部屋で椅子に浅く座り机に頬杖をついてぼんやりとしていた僕に姉が聞いた。
姉は僕の部屋によく出入りする。彼女は僕のベッドに腰掛けていて僕の背中に言葉を投げかけた。
「何でもないよ」
僕は振り返らずに言った。
ここ最近夕飯の後いつもこの同じやりとりがある。しかし、いつもとは違いやりとりはそれで終わらなかった。
「そっか。君もそんな時期なんだね」
姉はクスクス笑いながら言った。その笑いに何かを悟ったような雰囲気を感じた。
「随分知ったふうなことを言うんだね」
僕は幾分むっとして振り返って言い返した。
内心動揺が隠せていなくて心を見透かされているんじゃないかと不安になりながら。
「そりゃお姉さんは君より“少しだけ”長く生きてる。だから君より“少しだけ”ものを知ってる」
姉は得意げに言った。
「例えば?」
僕は動揺を隠すように、わざと目をそらさずに姉を試すような、挑戦的な口調で聞いた。
「例えばそうだなあ……。今の君の気持ちとか」
姉は今度はにやにや笑いながら僕の目を見てそう言った。彼女は実に様々な笑いかたをする。
その笑いが僕をさらに動揺させた
「もったいつけてないではっきり言えばいいじゃないか」
赤くなってそう言い捨てた。その後の姉の言葉にさらに顔を赤くさせられるとも知らずに。
「君は今恋をしているね」
姉は僕の反応を待たずにベッドからすっと立ち上がり流れるように部屋から出ていった。
まるでそれだけが言いたかったかのように。
僕は部屋に一人取り残されて顔を真っ赤にし動揺の中でもがいていた。
「何だっていうんだよ」