「駒の動きは将棋と似てる所が多いから、すぐ理解できるはずよ。
でも、ここに詰将棋とプロブレムの違いっていうのが書いてあるわ。
詰将棋は連続王手で相手の王を詰めるが、プロブレムはその必要はない、ですって。
ここに例題が載ってるから、これを見ながら要領を覚えましょうよ」
孝子は喜久雄に、駒の動きとその説明を始めた。
「なるほど。
将棋と似てるな。
これならなんとかなりそうだ。
ただ問題は、王手をかけなくてもいいってところだな。
これは逆に選択肢が多くて、詰将棋よりも難しいぞ。
それに何手詰めかも分からないし…」
「それなら分かるわ。
ニ手詰めよ。
詰将棋で言うところの三手詰め。
チェスでは、こちらと相手が一度づつ駒を動かして、その二つの動きをひとつとして『一手』と数えるの。
シミュレーションゲームの『ターン』と同じね」
「どうしてニ手詰めだと分かる?」
「ほら、雅則兄さんが、最後のテープの終わりに言ったじゃない。
『あとニ手で私をチェックメイトにしろ』って」
「そうか、あの時か!
よし、分かった。
それなら何とか出来そうだ」
孝子と喜久雄はチェス盤を挟み、ああでもない、こうでもない、とやり始めた。
「あたし達はどうする?」
「俺達三人は、次の事を考える」
「次の事って?」
「喜久雄が出す答が、どこに関係してくるかを考えるんだ」
「やっぱりチェス盤じゃないかしら?」
友子が言った。
「さっき駒と盤を取りに行った時に思ったんだけど、あの部屋にはたくさんのチェス盤があったわ。
あの中のひとつじゃないかしら?
その特定のチェス盤の、特定の位置に秘密があるんじゃないかしら。
特定の位置っていうのは、もちろん詰チェスの答の位置よ」
「よし、俺達は三階に行くぞ」
その時、柱時計が十時を告げた。