「母親が亡くなってからあの冷酷さが表に出てきたと上司は話している。だから奴を止める者はもういないのさ」
リカルドはそう言って、天を仰いだ。
「母親か…」
「ああ。奴が唯一心を許した相手だ。上司の話しによると、穏やかで争い事を好まぬ性格だったらしい」
「なるほど…だからそんな母親を冷たくあしらう父親を憎んだのか」
「ああ」
彼は小さく頷いた。
エナンは肩を揺すって首を傾けると、
「で?決行はいつになる んだ?」
と、尋ねた。
「荷物を運んだ後だ。それまでに色々と準備せねばならないからな」
「…そうか…」
「できれば荷物を運ぶ前にやりたかったんだがな…すまん」
リカルドは苦い顔で頭を横に振ると、小さく頭を下げた。
「いや…元々やる予定だったからな。気に病まなくていいぞ」
「そうか…」
二人は一斉に息を吐いて、頭を壁にこすりつけた。
「死ぬなよ」
「そっちもな」
そう言い合うと、エナンは左に、リカルドは右にそれぞれ歩いていった。
路地裏に砂塵が舞って、二人の姿を消し去っていった。