「俺…また病院送ろうか?」
アキは必死に否定した。
「何で?」
アキはノートに震える手で、
『お母さんがくるから。』と書いた。
「えっ…でも…。」
カズヒロは言い返そうとした。しかし、でも…の先が思いつかなかった。
『いいの。』
「アキ…。」
本当は、アキと一緒に病院に行きたい。
行きたい…でも、ダメだ。『どうしたの?』
「いや、何でもない。」
アキは、耳の痛みを気にしながら病院へ歩いていった。
「アキ…。」
カズヒロの目には涙。
何もできない悔しさと、アキの母に言われたことのつらさが、この時一緒にカズヒロを襲った。
「俺は…何で…。」
泣きながらその場に崩れ落ちたカズヒロ。
『会わないでください』
『遊びなら、別れてくれませんか?』
「何で…みんなそう言うんだよ!」
カズヒロは叫んだ。
アキの耳には、聞こえないはずだったんだけど。
涙の先には、アキがいた。「どうして気づいたの?俺の声…。」
アキは何も言わず、ハンカチを差し出した。
「サンキュー。」
カズヒロは涙を拭いた。
『なんとなく気づいたの。あなたの声が、波みたいに私をさらっていく気がした。』
「…波?」
アキは頷いた。
『…何で泣いてるの?』