「いや、アキは気にしなくていいよ。」
『気にしなくていいよ…って、言われると気にしちゃう。』
「…。」
『もしかして、お母さんのこと?』
カズヒロの涙が頬を伝ったのは、この言葉を言われた瞬間だった。
『…私、昨日言われた。もう、カズヒロくんと別れたほうがいいって。あんな遊びみたいな恋をしている暇があったら、耳のことをよく考えなさいって。』
「…俺も言われたよ。同じようなこと。」
カズヒロはアキに伝えた。『…私、つらかった。いつものお母さんじゃないみたいだった。私のすることにいつも賛成してくれて、優しいお母さんはどこに行ったの?って思った。』
カズヒロは黙って聞いていたが、目には涙。
「アキ…俺泣いていいかな…。正義のヒーローが台無しになっちやうなあ。」
『いいじゃない。つらい者同士、泣いてもいいじゃない。』
ゆっくり手話で伝えて、アキは去っていった。
カズヒロもゆっくり立って、涙をふいて、アキとは反対の方向へ帰っていった。
自分の病室に戻ったアキは、いかにも安静にしているような装いをして、お母さんを待った。
5分くらい待っただろうか。
お母さんがアキの病室に転がり込むようにして入ってきたのは。