「さよならを言ったほうがいいかしら?」
孝子も寂しそうに言う。
「そうね。
一応、言っておいたほうがいいわね。
だって、きっと本当の別れになるから…」
深雪が優しい笑顔で孝子に言った。
「あばよ!
本当言うとよ、おまえ達と過ごしたこの七日間は、けっこう楽しかったぜ。
じゃあな!」
明彦は彼らしい別れを告げ、食堂を出た。
「グッドラック。
きっとまた、いい事もありますよ」
喜久雄が言った。
「私、さよならって言うのキライなの。
だからバイバイ。
素敵な人生をね」
そう言って、友子が手を振った。
そして二人も食堂を出た。
食堂には深雪と孝子の二人だけが残された。
「いいもんだよね。
妹がいるってさ」
深雪は少し照れたような笑顔で言った。
「なんかさ、ちょっとだけ温かくなったような気がするじゃない。
この辺がさ」
そう言って、豊かなバストの左側を右手で押さえた。
「また、会える?」
孝子が聞くと、深雪は首を横に振った。
「きっとあんたは自由に生きていけるけど、あたしは水の中でしか生きられないよ。
…でもさ、少しずつだけど、あんたに恥ずかしくない姉になるよ。
今はダメな姉さんだけどさ」
「そんな事ないよ」
孝子が下を向いたまま、消え入りそうな声で言った。
「今のままで素敵よ。
今のままが好きよ」
「ありがと…
じゃ、さよなら、孝子。
元気でね」
深雪は一度笑顔を作ったが、すぐにその顔が泣きそうに歪んだ。
そのとたん、彼女はクルリと背中を向けた。
そしてそのまま、食堂を出て行った。
食堂には孝子一人だけが残された。
「さよなら、みんな」
孝子がポツリと言った。
「やっぱり…
もう会えないのね」
そう言った彼女の瞳から、涙がこぼれた。