「では、労働を続けさせてよいのですね?」
「ええ。そしてトンネルが完成して、その時にもし逆らってくるようなら、消してもいいわ。」
舞子は冷たい目で言い放った。それは冷たく見えるように見せる演技だった。今度は、舞子が覇王に譲歩していた。
「それでいいんでしょ、覇王。」
「……ああ。構わないよ、舞子。」
覇王は幾分ほっとしたように、舞子を振り返って微笑みかけた。それを見て、ハントは心の中で舌打ちした。
ジーナ達を生かす事ができたのは良かった。彼らは使える。強さそのものより、覇王や舞子に対する反逆精神、そしてそのバックに舞子の姉がついているという点で使えるのだ。
しかし、この些細な対立で、舞子と覇王の仲が裂けないかという目論みは外れてしまった。
(ま、この程度じゃ当たり前か。)
ハントは気を取り直して心の中で呟くと、スッと一礼して足を引いた。
「では、指示も仰げましたことですし、私はこれで失礼致します。」
「いや、待て。」
背を向けるが、覇王に声を掛けられ、ハントは渋々体を戻した。
「他にも何か?」
「お前達に対する処遇の話がまだだ。治安部隊に信用が置けなくなった以上、監視をつけねばならない。」
「……どなたが、つかれるのですか?」
ハントは床に目を伏せたまま問うた。
覇王は本来の調子を取り戻したかのように不敵に笑うと、その名を告げた。
* * *
ジーナはまどろんでいた。
先程まで、体中の傷口のあまりの痛さに声を上げ、発熱する体に荒い呼吸を繰り返していた。しかし、少し経つとその痛みも消え、やがて何も感じなくなった。
(まさかあの程度の傷で、私は死ぬというのだろうか……。)
浅い眠りの意識の底でそんなことを思い、ジーナは胸の内でふっと自嘲気味に笑う。
(いや、それはない。私の体は、そこまでやわではないはずだ。)
それに、この歌声。
背中を押し返す柔らかいベッドの感触。
むき出しの額に触れる、乾いた大きな掌。
心地好くて、ついそのまま深い眠りに沈み込みそうになる。しかしジーナは、これらの感触に心当たりがあった。その行為をする人物にも。そしてジーナの気高い精神が、それを続けさせることを許さなかった。
「……離れろ、ラドラス。」
ふっと目を開けると同時に、ジーナは呟いた。