カズヒロは後ろを振り返ると、アキの母親がいた。
「もう…会わないでって言ったよね?しかも面談しているときに勝手に入ってきて…。」
「…すいません…。」
カズヒロは深々と頭を下げた。
アキはその光景を見ていられず、
『お母さんは、私の事全然分かってない!』
「分かってないのはそっちでしょ!夜遅くまで男の子と遊んでるからこんなふうになるのよ!」
お母さんはアキをビンタした。
『何するのよ!』
アキがビンタし返そうとすると、
カズヒロが前に出た。
「忘れたんですか。前俺が言ったこと。」
「…あなたの言う事、本当かどうか分からないから。本当にあの時、アキを助けたかどうかも分からない。」
「遊びじゃない。これだけでも、信じてもらえませんか?」
…本当は怒りたかったが、カズヒロは抑えて頭を下げた。
『お母さん、私とカズヒロのことを、遊びで付き合ってるって思ってるの?』
「…お母さんを、1人にしないでほしいの。」
カズヒロの目が変わった。「アキ、分かるよね?アキがいない間、お母さん1人で夕食作って、ずっとアキのこと待ってるのよ。それも分からずにアキはずっと帰ってこないし…。」
『でもお母さん、…』
言葉にならなくて手話を止めたアキ。
「すいません。カズヒロくん。アキの父は、もう亡くなっておりまして、親は私1人だけなんです。私もただ単に会わないでと言ってる訳ではないんです。親子の時間を奪わないで欲しい…それだけなんです。」
カズヒロは怒りから一転、悲しくなってきた。
自分が、外へ外へと追いやられてしまうような気がして…。
アキが間に入った。
『ごめんなさい。お母さん。でも、会うなってちょっと厳しすぎるよ。』
お母さんは頷いた。
「でもね、アキは…。」
お母さんが喋ろうとしたとき、
カズヒロが口を開いた。
「確かに…そうかもしれない。」
カズヒロの声は、疲れきっていた。