「ねえ、光。これ置いたあと抜け出そーよ」
「そーだな。あっちはあっちで上手くやってるだろーし」
「あっち?」
「シュンと角田さん。シュンが誰か紹介しろって言ってきたからさ」
え?
「なーんだ。光、リクちゃんのこと好きなのかと思った」
「なわけねーじゃん。俺にはリエがいるし」
え?
そんな……
「ねえ、もしさ。リクちゃんが光のこと好きだったらどーする?」
「無理無理! 速攻断るね。何か付き合ったらめんどそーじゃん? 嫌だよ、あんなやつ」
「えー、ひどーい」
リエちゃんはケラケラ笑いながら言う。
そして2人はぴったり寄り添って部屋に向かった。
───『なわけねーじゃん。俺にはリエがいるし』
───『何か付き合ったらめんどそーじゃん?』
───『嫌だよ、あんなやつ』
「……馬鹿みたい」
今日私が誘われた理由、私が期待してたのじゃなかった。
結城くんは彼女がいた。
結城くんは私のこと……
私はトイレから出て階段を駆け下りた。
カラオケ店からでて駅の方へ走る。
しばらくすると息が上がって苦しくなった。
私は膝に手を乗せて息を整える。
するとアスファルトに水玉のあとがポツポツついた。
それは雨じゃなくて、私の涙だった。
涙は拭いても拭いても止まらない。
私はその場にしゃがみ込んで、膝を抱えて顔を埋める。
結城くんの言葉が頭の中をグルグルまわる。
嗚咽を漏らしながらしゃがんでいる私の横を何人もの人が通り過ぎた。
どんな目で私を見ているかは想像がつく。
それでも構わなかった。
「大丈夫?」
近くで誰かの声が聞こえた。
知ってる声。
私は顔をあげた。
「……アオト」
アオトは私の前にしゃがんで、私の顔をのぞき込んでいた。
「リク、どーしたの?」
「……アオト。私、私……」
気づいたら私は声を出して泣いた。
アオトはわんわん泣く私を、横から抱きしめる。
周りの目を気にすることなく、アオトは私が泣き止むまでそうしてくれていた。